いくさの終わった戦場にひとり立つ背を見つけて、小十郎は静かに歩み寄った。
 いましがたまで行われていた戦いの跡をじっと見下ろしているあるじの姿は、鮮やかな蒼の陣羽織が紅く染まっていようとも、足元に累々と重なった屍をしたがえていようとも、小十郎の目にはひどく美しく映る。
 ざく、と土を踏む音に、政宗はゆっくりと振り返った。兜の弦月が日の光をはね返して、目を射た。
 「こじゅうろう」
 名を呼ぶ声音に、小十郎は目を細めた。
 この優しいあるじは、散った命も守った命も、すべてひとりで背負って進もうとしているのだろう。それは何と重く、苦しいことか。それでもかれは、揺れる姿を決して見せようとはしない。
 ――ああ、あなたさまは、いまだ、

 つよくあろうと、
 

暗闇の中でひとり泣く子供のように

  はい、とだけ口に出して、小十郎はいつものように彼のかたわらに添う。
 前にお進み下さい、政宗様。あなたさまの荷は、この小十郎が共に背負いましょうぞ。
 

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